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ワイン連動のこころ~もっと勝手に食したり、今以上食したり

(最近は、コンビニを利用したり自分で料理をしたりして過ごしているので、以前、ランチに通っていたお店がとても懐かしく感じられます。しばしの間、お付き合いください)

 

洒落た装いが感じられる居心地のよい店内から通りにふと目をやると、落日の光彩がいっそう際立って感じられ、西欧風の異国情緒あふれる佇まいに私はすっかり魅了されていた。まるで日常のありふれた感覚を逸脱し、時の織り成す魔法にかけられた傀儡のように、外部の喧騒から隔絶された自分が、ただ呆然とした状態のままカウンターに座っていた。

 

私は若い店主に「ポアレ」を頼みながら、まず白ワインを口に注いだ。すると、そのときだった。その豊穣な果実の香りが一気に広がった瞬間、言葉を失うほど惹きつけられていたのである。

 

外が漆黒の闇に包まれると、通りを挟んだ対面のレストランにも灯がともり、色鮮やかなネオンはアメリカの古きよき時代を彷彿とさせる。空間を漂うバードのジャズに身を任せているのが心地よく感じられると、日々の生活で疲弊した精神すらも、緩やかな時の流れの中に透き通るように見え、ごくありふれた自然な様相のまま、背後の壁に溶けていくのが感じられたものだ。曲は、いつしかサッチモに変わっていた。

 

酒はバーボンしか飲まなかった。もともとワインの甘さには苦手意識があり、昔から勝手に引きずっていた誤った固定観念も手伝ってか、お付き合いの場で仕方なく口にする程度の記憶しかなく、殊更、気にも留めていなかった。だが、この偶然がもたらした「邂逅」とでも言えばいいのだろうか、現実にその清澄で精妙な舌ざわりを感覚の深奥で経験してみると、もう2杯目を頼むほどの感嘆に包まれていたのである。

「ワイン」と一口に言っても、数千以上もの種類があるそうで、保存時に温度を一定に保つことだけは私も微かに覚えてはいたのだが、グラスに注いでから少し時間が経つと風味が変化するこの飲み物。ここまで千変万化する液体だとはついぞ思いもしなかった。

 

「時間」という尺度で考えるなら、コーヒーはワインの対極にあり、時間とともに確実に味は落ちてしまう。コーヒーの場合、「淹れて30分以内、挽いた豆で1週間以内、焙煎豆で1か月以内」が賞味期限だと言われている。

 

一方、ワインは瓶に入った状態でも、時とともに風味が移り変わる存在である。開けたばかりのときは極めて野性的な鋭さがあり、とっつきにくいのだが、やがて穏やかな口当たりへと変化していく。その様相は常に物静かで気品にあふれている。

 

例えば、ある山梨県産の白ワインは、時の経過でその舌触りが微炭酸のごとく移行した。また、黄淡色に色づく白ワインもあった。初めは、果実のごとくさわやかでフルーティな香りがするのだが、やがてゆっくりと深みのある芳醇な雰囲気へと、実に華やかな変貌を遂げる。誰もが惹きつけられるまでに、多くの時間を要さないことは想像に難くない。

「(お店の予約時間の)2時間前に(ワインを)開けておいてくれ」とオーダーする客もいるとのことだが、飲み頃がよくわかっていらっしゃる熟達した御仁のようだ。

 

言うまでもないことだが、プロの料理人ともなれば、ワインを単なるお酒として捉えるのではなく、肉魚料理とのマリアージュ(相性)も考えてくれるものだ。ワインと料理とは、その組み合わせもいっしょに楽しめる稀有な蜜月関係なのだと知った。

 

「ワイン」とは、ブドウの持つ品種によって個性的な味わいを表出する。当然のことながら、産地の自然条件の影響も色濃く受ける。「農作物」と称されるほどに精密な存在と言われる所以だ。この類まれな「発酵物」の製法は、意外にも畑での土仕事が原点だそうである。

 

日々の生活の中で、「好きなもの」がひとつ増えれば、そのたびに新たな喜びが生まれ、毎日が楽しく過ぎ去っていく。コロナ禍で新たな趣味に目覚めたり、思わぬ才能が開花したりした人もいると聞く。私もささやかながら、「手料理」に開眼したのかもしれない。自分のメニューにワインを使用してみたところ、思わぬ深い味覚と出合い、それを契機に「食べること」がますます面白くなってきた。すると、自分だけの秘密にできず、人に伝えたくなってしまうのは、誰もが持つ人間の性とでもいうべきものなのか。

 

やはり、「楽しみ」というものは、ただじっと待つべきものではないようだ。自らが「創造する」ことでしか、己の近くにはやって来ないものなのだとしみじみ思うこのごろである。

 

福島県家庭教師協会 専属教師 村井眞一

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